To:チームメンバーのみんなへ
洋の東西を問わず、少なくない企業において
理念やビジョンって形骸化しています。
たとえば、理念が絵に描いた餅になっていて
実際は利益を追求するだけの組織になっていることは
とても多いです。
これはどうやって判断するかというと、
理念と利益がどう頑張っても両立できないときに、
「理念と利益のどちらをとるのか?」
で判断できます。
この件で有名なのは、1982年9月30日に
アメリカで起こった「タイレノール(※)事件」です。
※タイレノールとは鎮痛剤のことで、
ジョンソン・エンド・ジョンソン社(以下、J&J社)が
出している商品です。
当時のシカゴ警察はこう発表しました。
「シアン化合物が死因の7人が
死ぬ直前に共通して飲んでいた薬が
“タイレノール”だということが分かりました」
この報道を受けて、アメリカ国民はパニックになりました。
タイレノールは、アメリカで圧倒的に普及していた薬で、
誰もがお世話になっていたからです。
おそらく、有害なシアン化合物を
誰かがタイレノールに混入させたようだ……
ということになりました。
そんな不明確な状況で、
J&J社は経営者を集めて会議をしました。
当時、タイレノールはJ&J社の稼ぎ頭で、
「金のなる木」になっていました。
しかし、タイレノールが危険と
断定されたわけではないのに、
「タイレノールを回収します!」
とJ&J社は記者会見ですぐに発表します。
それどころか、
「タイレノールは飲まないでください!」
と注意喚起さえしたのです。
それによって、J&J社の売上は激減しただけでなく、
回収コストに1億ドルもかかりました。
さらには、異物混入ができないように
タイレノールの包装方法も変更するなど、
かなり大変な事態になりました。
しかし、アメリカ国民はそんなJ&J社のスタンスを
よく見ていたのです。
「この会社は、売上よりも、国民の命を優先している」と。
そして、事件から半年後が経ちます。
J&J社がタイレノールのリニューアルを発表すると、
アメリカ国民はタイレノールを
昔のように購入するようになったのです。
(結局、異物混入の犯人は見つかりませんでしたが、)
タイレノールの売上は事件前の80%まで戻り、
J&J社の信用は事件前より強いものとなりました。
さて、ここで疑問が出てきます。
J&J社は、なぜ1億ドルもの回収コストをかけ、
さらには半年分のタイレノールの利益を飛ばすという
意思決定ができたのでしょうか?
その理由は、J&J社がクレド(信条)に基づいた
理念経営をし続けてきたからでしょう。
J&J社には「消費者の命を守る」ことをうたった
「我が信条(アワー・クレド)」という経営哲学があり、
社内に徹底されていました。
(事件は起きて欲しくはないですが)
こういった理念を重視した意思決定は、
私たちもぜひ取り入れたいですね。